夏の終わり

短編小説ではありませんが、
今回のライブで上演した台本を、
せっかくなのでアップしてみる事にしてみました。
短編で、空気で伝える感じで書いたつもりなので、
読むだけでは良くわからないかもしれませんが、
もし良かったら読んでみて下さい。

まさか上演しようなんて人はいないとは思いますが、
もしも、嬉しい事に上演したいなんて方がいれば、
是非ご一報ください。

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

夏の終わり


吉田が座って、何か手紙のようなものを書いている。
読んでクシャクシャにしようとすると、
そこに鈴木がやってくる。
吉田は慌てて手紙を隠す。

鈴木 あれ??吉田さんまだ残ってたんですか??
吉田 ん?うん。・・・なんで??
鈴木 あ、いや、珍しいなって思って。
吉田 まぁ、そうだね。
鈴木 ・・・・何か書いてるんですか??
吉田 いや、別に・・・
鈴木 別にって、めっちゃ書いてるじゃないですか。
吉田 まぁ、そうだね。
鈴木 何書いてるんですか??
吉田 文章。
鈴木 へー、文章なんですかぁ・・ってわかりますよそれくらい。
   何の文章を書いてるんですか??
吉田 いーじゃん別に何の文章でも。
鈴木 えー、気になるじゃないっすか。教えて下さいよぉ。
吉田 でもお前、俺が何書いてるか全然興味ないだろ。
鈴木 はい。全く興味ないっす。
吉田 じゃあ聞くなよ。
鈴木 え??でも、なんか相手にしてもらいたいじゃないっすか。
   俺って基本、寂しがりやさんなんで。
吉田 あのね、俺今忙しいの。
鈴木 わ、出た。今もしかして俺の事うざいって思いました??
吉田 いつも思ってるよ。
鈴木 ねぇ先輩。今日呑みに行きません??
吉田 何で??
鈴木 夏だからに決まってるじゃないですか。
吉田 もう夏は終わりだよ。
鈴木 何言ってるんですか!!まだまだ夏ですよ。
   まぁ、秋の気配も感じつつも、生ビールはまだ美味いっす。
吉田 どこの店に行きたいの??
鈴木 ってか、先輩の彼女さんも来れないっすかねぇ。
吉田 え??
鈴木 ほら、いるじゃないっすか、あのめっちゃ綺麗な彼女さんが。
吉田 あぁ・・
鈴木 今日は会わないんですか??
吉田 ・・・・
鈴木 無理っすかね??
吉田 多分無理だと思う。
鈴木 えー、何でですか??
吉田 まぁ、いろいろあるんだと思うよ。
鈴木 あー、そうっすか。じゃぁ、せめて吉田さん付き合って下さいよ。
吉田 何?なんかあったの??
鈴木 いや、実は智子の事なんですけど・・・
吉田 え??また??
鈴木 またってなんすか。違うんすよ。俺たち、昨日別れたんすよ。
吉田 (無意識に何気なく、手紙に目を落とす。)
鈴木 あ、先輩信じてないでしょう。
吉田 だってお前先月も同じ事言ってたじゃん。
鈴木 違うんすよ。今度は完全にマジっす。
吉田 お前らはね、絶対に別れないよ。
鈴木 何でそんな事がわかるんですか!!
吉田 多分な、そうやってしょっちゅう喧嘩してる方が良いんだよ。
   逆に全然喧嘩しないでお互いに我慢しちゃう奴の方が、
   ある日突然別れる事になったりするんだよ。
鈴木 またそうやってわかった風なことを言うんだから。
吉田 そうだな、本当は全然わかってないのかもしれないね。
鈴木 わ、珍しい。いつもの説教じゃないっすねぇ。
吉田 え?説教して欲しいの??
鈴木 いや、嫌です。
吉田 全く・・・・
鈴木 違うんですよ。吉田さん達は、
   もう10年くらい付き合ってるって言ってたから、
   いろいろ教えてもらおうと思ったんすよ。
吉田 教えられるような事なんてなんにもないよ。
鈴木 そんな事ないですよ。だって10年は長いですよ。
吉田 長いかなぁ・・・
鈴木 長いですよ。
吉田 ・・・わかんない。
鈴木 先輩達は喧嘩したりしないんですか??
吉田 うーん。だんだんしなくなってたかな。
鈴木 そうなんですか??
吉田 うん。
鈴木 それはやっぱりわかりあえてたんですよね。
吉田 そう信じたいな・・・でもね、した方が良いと思うよ。きっと。
鈴木 そんな事ないですよ。
吉田 そうかなぁ。本音すら言えなくなってくのも辛いと思うけど。
鈴木 まぁそうなんですかね・・・
吉田 そうやってわかりあえていくもんじゃないの??
   まぁわからないけど、もしやり直したかったら、
   ちゃんと話し合うべきだと思うな。
鈴木 あの・・・
吉田 なに??
鈴木 実は智子にプロポーズしようと思っているんですが・・・
吉田 え??
鈴木 今回喧嘩して、実はもう1カ月くらい会ってないんですけど、
   会えない時間にいろいろ考えて、やっぱり、
   もうちょっと俺がちゃんとしないといけないんじゃないかと思って。
吉田 そっか。
鈴木 どう思います??
吉田 どうもこうもないよ。お前が決めることだろ。
鈴木 そうなんですけど・・・
吉田 タイミングだな。
鈴木 え??
吉田 結婚はタイミングだって言うだろ。お前がそう思うなら、
   今がそのタイミングなんだと思う。
鈴木 そうですかね??
吉田 そうさ。いつかいつかなんて思ってるとさ、
   いつの間にかいなくなっちゃうよ。
鈴木 はい。
吉田 愛は生きているうちにってね。
鈴木 なんですか??
吉田 ジャニスジョプリンって人がいたんだよ。
   手紙すら届かない所に行っちゃってからじゃ、もう遅いんだから。
鈴木 ん??何すか、それは・・・・
吉田 別に・・・・
鈴木 ・・・・
吉田 ・・・・
鈴木 夏の終わりって、なんか寂しくないっすか??
吉田 ん??
鈴木 だんだん涼しくなって、日が短くなって。
吉田 まぁそうかな・・・
鈴木 僕ちょっと行って来ますよ。
吉田 頑張れよ。
鈴木 はい。(と出て行こうとする)
吉田 (また手紙を書き始める。)
鈴木 吉田さん。
吉田 ん??
鈴木 友情ってのは、多分永遠に続くんだと、誰かが言ってました。

 (音楽が流れ出す。)


吉田 え??
鈴木 また呑みに行きましょう。(と、去る。)
吉田 (くしゃくしゃにした手紙を出す。
    もう一度読み直し、大切そうにポケットに入れ、去る。)

  


2009年09月14日 Posted by リッキー at 20:35Comments(0)超短編小説

ジェリーロールベイカーブルース

港が見える小さなパン屋を探していくつかの港町をまわったが、結局見つけることは出来なかった。5つ目の港を出て、家に帰ろうと駅に向かうと、駅前に小さなパン屋があった。店は、昔、家の近所にあった駄菓子屋のような感じで、雰囲気は悪くないな、と僕は思った。少し迷ったが、僕は店の中に入ることにした。若い娘が出てくるのを期待したが、店番は愛想の良い老婆であった。試しにジェリーロールを注文してみると、ニッコリと笑って、山崎のジャムパンを出してくれた。
 「ジェリーロールベイカーブルースという曲があるんですよ。」と、話しかけると、老婆は笑顔で首を横に振りながら、自分の耳を指差した。どうやら老婆は耳が聞こえないらしい。そこに店の奥から老婆の孫らしい少女が出てきた。
 「お婆ちゃんは耳が聞こえないの。でもね、何故かお客さんの顔を見るだけで、お客さんがどのパンを買いに来たのかがわかるの。」
僕は何と答えたら良いのかわからなくて『そうなんだ』という風に頷いた。
 「ところでその、“ジェリーロールベイカーブルース”って、どんな曲なの?」
 「港の見える小さなパン屋さんと、そこの娘に恋している男の子の歌なんだ。」
 「なんだかステキな歌みたいね。」
 「聞いてみるかい?」僕がコートのポケットからウォークマンを取り出すと、少女は店の奥から小さなラジカセを持ってきてくれた。そこで僕は、ジェリーロールベイカーブルースを流した。少女ははじめ、一生懸命曲を聴こうとしてくれていたが、半分くらいのところで、「私には良くわからないわ。」とあきらめたようにつぶやいた。
その時、僕は老婆が音楽に合わせて微かに身体を揺らしていることに気がついた。老婆はうっとりとしたような、幸せそうな表情で、音楽の世界に身を委ねているように見えた。
 「お婆ちゃんには、この曲が聞こえているのかしら。」と少女が言うので、僕は「わからない」と答えた。曲が終わると、僕は少女に一つの提案をした。
 「なんだかよくわからないけれども、このカセットテープは君達にあげるよ。君にもいつか、この曲の良さがわかる日が来るかもしれないし。」すると少女は、
 「だったら私は、あなたにそのジャムパンをあげるわ。」と言った。僕は黙って頷くと、その店を出た。二人は笑顔で僕を見送ってくれた。

僕は電車の中で、ジャムパンを食べながら、あの老婆には一体どんな恋の物語があったんだろう。そして、あの少女には、これからどんな恋の物語があるんだろうと、そんなことを考えていた。



憂歌団のジェリーロールベイカーブルースは、
すごい名曲だと思います。
シンプルなメロディーの中に、
物語がちゃんとあり、何故か泣かせます。
この曲は憂歌団のデビューアルバムにも収録されていますが、
やっぱりこの“Lost Tapes”に収録されているバージョンが、
最高に良いです。
ただこのCDは再販されるかわからないので、
もしも興味があれば、早めの購入をお勧めします(笑)

なお、この物語は僕が曲からインスパイアされた物語です。  


2008年11月02日 Posted by リッキー at 20:56Comments(0)超短編小説

激しい雨が降る。

午前6時。
窓の外には激しい雨が降っている。
産まれて1ヶ月の赤ん坊がゆりかごに揺られながら、
窓の外の景色を見つめている。
その赤ん坊は、30年後に世界を動かす人間になる。
彼は窓の外がやけに歪んで見える事に気がついているのかもしれない。
ただ黙って外の景色を眺めている。
窓の外には激しい雨が降っている。

午前6時。
少年は今日もコーヒー農園で働いている。
青すぎるくらいの青い空一杯に、
白い霧のような農薬が散布される瞬間が、彼は大好きだった。
体はひどく疲れているに、
その瞬間、白い霧の中に、とてもきれいな虹が見える。
それを見ていると、息苦しい感覚を忘れて、
自分が生きている事を実感できる。
少年は今日もコーヒー農園で働いている。

午前6時。
青年はようやく眠りについた。
両親を殺し、自由を奪う力との戦闘の毎日のせいで、
彼はほとんど眠る事が出来なくなっていた。
彼の両親は10年前、友人の結婚式を祝っている最中に、
飛んで来たミサイルに花嫁と花婿と共に吹き飛ばされた。
そんな戦闘の毎日の中で、唯一眠りにつく瞬間だけは、
安らいだ気持ちになる事ができる。
青年はようやく眠りについた。

午前6時。
男は朝焼けの空を見つめている。
医者になって10年。
自分が一生に救える命の数の少なさに涙を流している。
彼の母親は彼を産むのと同時に命を失っていた。
だから彼は、医者になり、全ての人の命を救いたいと考えていた。
少なすぎる仲間の数と、悪すぎる環境の中で、
もがきながらも、精一杯医療活動を続けていくことしかできない。
男は朝焼けの空を見つめている。

午前6時。
老人は朝のコーヒーを飲んでいる。
彼は、もう何十年もの間、同じ時間に同じ場所でコーヒーを飲み、
議会に向かう事にしている。
全ての国民の代表として、彼は働いている。
沢山の金と命としがらみと金に縛られながらも、
彼は法を作り、予算をたてる。
命としがらみと金の優先順位に苦悩しながら、
老人は朝のコーヒーを飲んでいる。


午前6時。
窓の外には激しい雨が降っている。
産まれて1ヶ月の赤ん坊がゆりかごに揺られながら、
窓の外の景色を見つめている。
その赤ん坊は、30年後に世界を動かす人間になる。
彼は窓の外がやけに歪んで見える事に気がついているのかもしれない。
ただ黙って外の景色を眺めている。
窓の外には激しい雨が降っている。

午前6時。
窓の外には激しい雨が降っている。



  


2008年10月25日 Posted by リッキー at 00:18Comments(0)超短編小説

Just like New York City

この小説を読み終えた読者の多くは、この作品がとても広く大きな世界について考え、描かれた作品であると勘違いしてしまうのかもしれない。しかし、この作品はもっと、プライベートな小さな世界のことについて描かれた作品である。はっきり書いてしまうと、この作品は、ナナミのために作った作品である。

僕がナナミにはじめて会ったのは、5年前。僕は30歳で、彼女はまだ高校生だった。出会いのキッカケは、逆ナンである。信じられないとは思うが、逆ナンされたのだ、30歳の僕が。とりあえず僕らは、静岡のサンマルクカフェで2時間ほど話をした。彼女は実にあっけらかんと、自分が中学時代から援交を始めたこと。自分が家族の中ではきちんとした娘であること。そしていつか、自分にとって一番素敵で、最高な彼氏ができて、平凡な家庭を築くんだということを、ほとんど一方的に話していた。そして最後に、私3万円なんだけど、とあっさり言い放った。だから僕もその誘いをあっさりと断った。彼女は“変な奴”と大爆笑すると、何故か僕のメルアドを教えてくれとせがんだ。僕は変な事件に巻き込まれたり、メルアドを悪用されるのが嫌だったから教えなかった。すると彼女は、もしも、もう一度どこかで会うことがあったなら、そのときは教えると約束して、と言ったので、僕はそんなこと絶対にありえないだろうと思ってOKした。サンマルクカフェのコーヒー代は彼女が支払ってくれた。

一ヵ月後、僕は約束のことなんてすっかり忘れて、谷島屋で立ち読みをしていた。するといつの間にか隣にナナミが立っていた。僕は渋々メルアドを教え、今度はスタバで2時間ほど話をした。その時のコーヒー代は僕が支払った。そんな風にして僕たちは、時々会って話をするようになった。話をするとは言っても、ほとんど彼女が一方的に話をしていたんだけれども・・・・ナナミから来た最後のメールには『私、そろそろ死のうと思うの』と書いてあった。今のところ彼女が死んだと言う話も、生きていると言う話も僕のところには来ていない。あれからもう3年の月日が経ってしまった。ナナミからの最後のメールを受け取って1年が経った頃から、僕はいつかナナミのために物語を作りたいと思っていた。彼女がまだ生きているのかどうかはわからないけど、僕と話していた頃の彼女の、刹那的で危なっかしい、でも驚くほど輝いてたあの瞬間が確かに存在していたんだという事を残しておくために。

そしてそれがこの作品だ。君に何が伝わるのかはわからない。でも、この作品はナナミにさえ伝われば良いと思っている。絶対にこの小説を読むことのない、ナナミに。


Ricky's Stone 第3回公演 “Just like New York City" パンフレットより

  


2008年10月17日 Posted by リッキー at 22:43Comments(0)超短編小説